2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧

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本土を離れてチャムスに着くまでの半月以上の日々は、太郎にとってそれまででもっとも長い旅になった。その間に太郎は、目にしたことがなかったものをいくつも見た。旅の中継地点となった名も知らぬ占領下の町で観た建物は、本土にある木造の家屋とはまるで…

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イラクじゃ、誰もがうんざりしていた。街の中じゃ毎日銃声と女子供が泣き叫ぶ声が絶えなかったし、三日に一度はどこかからデカい爆発音が聞こえた。昨日の音は近かったな。また、自動車爆弾だったらしい。現場に出くわしたハワードの頭に、吹っ飛んできたバ…

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「実はですね。山之内先生が殺される前の晩、山之内先生が男と一緒に街の繁華街を歩いてるのを目撃したっていう人がいるんですよ。 しかも、その男っていうのが、日本人じゃない。ガイジン、それも黒人です。市街地でさえ、この辺じゃガイジンなんて珍しいで…

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太郎を孤独のまま置き去りにするかのように、早々と訓練期間の半年は過ぎ、彼は陸軍第二総軍第八方面部隊――通称、満ソ境界領域警備隊――へと配属を命じられた。同じころに訓練所に入れられた若者たちが一同に集められ、次々に激戦地へ向かう命令を受けている…

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「実はですね、殺された山之内先生の死体を解剖した結果、膣内から微量ですが男性の体液――というとなんだか回りくどいですが、要するに精液です――が発見されました。館内先生が見てのとおり、山之内先生の死体にはビーカー……じゃなかったな、ええと……メスシ…

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代々の生業であった養鶏業に従事していた小笠原太郎の下に赤紙が届いたのは、1935年3月15日、彼が18歳になったばかりのことだった。 それからわずか一週間で、太郎が御庭町を出て東京に行くことが決まった。体格検査を経て(少しばかり体重が少なか…

外は空調が効いた職員室とは比べられないほど蒸し暑く、息を吸うと熱を持った湿気がのどを通っていくのが分かるぐらいだった。額に滲んだ汗を拭いながら駐車場まで出て行くと、刑事も同じく手に持ったハンドタオルで黒ずんだ顔をしきりに拭っていた(おそら…

極限状態にまでおいこまれた人が、その瞬間に超常現象的な体験をしたり、超自然的なものと出会った、という証言を残すことがある。 例えば、1972年、アメリカ・ノースダコタ州ではダグラス・フォックストロットという男性がなんの変哲もない真っ直ぐな道の続…

次の日、昼休み中の職員室で誰かが読みっぱなしで放っておいた地方紙を開くとテレビ面の裏に小さく山之内先生の死亡記事が出ているのに気がついた。 5日午後8時00分ごろ、F市立御庭中学校で飯沢町肥田野字岩堂31、同校教師、山之内揺美さん(28)が…

市街地と御庭町をつなぐ道は、一本の曲がりくねった道だけで、館内は毎日、この国道399号を使って通勤をしていた。彼がまだ初めての給料も入らないうちに、長いローンを組んでスカイラインを買うことになったのは、この山道をスポーツタイプの車でぶっ飛ばし…

あー。あー。あ、あ。マイク入ってるみたいですね。おい、ちょっと静かにしないか(体育教師の、ガサガサした低い声が、全校生徒108人の規模に合わせて作られた体育館に響き渡る)。 これから、校長先生から大事な話が君らにある。もしかしたら、君らは知っ…

黒のスカイラインGTRを降りて、僕を待っていたのは不気味なほどいつもと変わらない学校生活(教師生活)だった。職員室で変わったものといえば、いつもあの男性的な腕毛がたくましい、体育教師には相応しい腕をもった男がまとわりつくようにして立ってい…