2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

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イリヤ・ピョートルヴィチ・ヴィシネフスキーは代々ロマノフ王朝に仕える宮廷医の家の次男として生まれ、しかるべき教育を受けた後、父、ピョートル・イリイッチや兄、ウラディミール・ピョートルヴィチがそうしたように皇帝に仕える医師となった。医学を志…

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山之内先生の告別式の日は、朝から雨が降っていた。この地方で、夏の雨ほど嫌なものはない――室内の床に水溜りができるほど、湿気を含んだ空気がやってくるだけで、雨が降っても気温は晴れの日と変わらないぐらいに高いのだ。汗と湿気でシャツの袖がねばねば…

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太郎は自分が無線兵に任命されたことに戸惑いを見せた。なにしろ、彼が生まれた土地は、無線のような精密機械はおろか自動車だって見ることのできない田舎だったからだ。辛うじて文字が読めるほどにしか学もない自分がなぜこんな機械仕事をさせられるのだろ…

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建物のなかで明かりになるものといったら、ガラスが全部割れちまってる窓から入ってくる月の光ぐらいのものだった。こんなに暗くちゃ、ジェネシスの肌の色は闇のなかに溶け込んじまって見えるはずがない――俺たちが暗視スコープを装備してたのは、自然な成り…

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酷く蒸し暑かったあの昼休みの出来事があってから、刑事の言葉は僕の頭のなかをぐるぐると回り続け、僕はとても煩わしいような気持ちを抱きながら生活しなくてはいけなかった。あのとき手渡された如何わしい液体の入ったプラスティック容器は、くたびれたス…