あー。あー。あ、あ。マイク入ってるみたいですね。おい、ちょっと静かにしないか(体育教師の、ガサガサした低い声が、全校生徒108人の規模に合わせて作られた体育館に響き渡る)。
 これから、校長先生から大事な話が君らにある。もしかしたら、君らは知ってるかもしれないし、知らないかもしれない。しかし、大変な話だから心して聞くように!落ち着いて!(このとき、御庭中学の全教師が一番落ちつくべき人物を、この体毛の濃い体育教師だと思っていた)
 あー。これから私が話すことは、とてもショッキングな出来事であり、生徒諸君はおそらく驚きを隠せない話だと思う。しかし、先生はだな、諸君らの強さを信頼して、あえて話す。もしかしたらすでに知っている人もいるかもしれない――山之内先生のことだ。
 山之内先生にはこの学校のみんながお世話になった。なにぶん、小さな学校だから、山之内先生の授業を一年生から三年生までみんなが受けていただろう。山之内先生は、とても綺麗で評判だったし、とても優秀な先生だった。私は、理科のことはあまりわからんけれど。
 わからんけれども!あんな綺麗な先生が悪い授業をしていたとは到底思えない。間違いなく、御庭町で一番美人の人物だったことは諸君らも容易に理解できることだったろう。あんなに綺麗な先生がいたら、私も学生時代にもう少し理科の勉強をしてだな、もしかしたらもっと理系の成績がよくなったりして、あのときよりもっと良い学校に入って、今より良い学校の校長に……(ゴフン、ゴフン。教頭の大きな咳がこだまする)
 それはともかくとして、あの山之内先生は、昨日この学校の理科室で亡くなった。不幸な事故で亡くなったのだ(遠くのほうで犬の鳴き声がする)。いいかね、不幸な事故でだ。断じて、事件といような、やましいものではない!私としてはこの事実だけ、諸君の胸にとどめておいてもらえればそれで良い。もう一度言う。山之内先生が亡くなったのは!事件のせいなんかではない!
 最後に、諸君にひとつだけお願いがある。亡くなった山之内先生のために、お世話になりました、という気持ちをこめてこの学校の校歌を歌ってほしい。これから校長先生が、このラジカセのスイッチを押すからな、この伴奏に合わせて歌うんだぞ。あ、三年生の皆は何度も歌ってるから分かるな。最初のメロディのところは前奏だ。前奏が終わったら歌うんだぞ。
(校長がラジカセのスイッチを入れる。しかし、ラジカセにセットされた電池が古いものだったため、充分な電力が得られずモーターは正常なスピードで回転しない。ちょうど三音下で響きだした前奏はしだいに弱々しくなっていき、耐え切れなくなった教頭が歌詞の二番の途中でラジカセのスイッチを切った)。